成年後見制度における不動産売却について
2024年11月06日
成年後見制度は、認知症などにより判断能力が低下した方を保護し、財産を守るための制度です。代理人がその方に代わり様々な契約をしたり、資産を管理したりできる制度です。ただし、売却には特定の法的な手続きや家庭裁判所の許可が必要となります。本記事では、成年後見制度を利用した不動産売却の流れや注意点について、分かりやすく解説いたします。
成年後見制度の概要
成年後見制度は、認知症などにより判断能力が低下した際に、その方の財産や生活を守るための制度です。この制度には、以下の2つのタイプがあります。
・任意後見制度
本人が判断能力を保っている段階で、信頼できる方を将来の後見人として指名できる制度です。
・法定後見制度
既に判断能力が低下している場合に、家庭裁判所が後見人を選ぶ制度で、「後見人」「保佐人」「補助人」のいずれかが選出されます。
成年後見制度利用の流れ
・地域の相談窓口へ問い合わせる
市区町村の相談窓口や成年後見制度に関わっている団体へ相談する。
・家庭裁判所へ申し立て
必要書類と手数料を用意し、家庭裁判所へ法定後見人の審判の申し立てを行います。
・裁判所が成年後見人を決定
裁判所が成年後見人などを決定します。本人との利害関係その他の事情を考慮して成年後見人が選ばれるため、必ずしも親族が選ばれる訳ではありません。家族から成年後見人が選ばれる確率は2割弱と減少傾向にあるようです。
不動産売却の基本的な流れ
成年後見制度の下で不動産を売却する場合、以下の流れに沿って手続きが進められます。
- 不動産会社との媒介契約
成年後見人は、まず不動産会社と媒介契約を結び、物件の売却活動を開始します。 - 売買契約の締結
買い手が決まり、条件が整ったら売買契約を締結します。この際、契約には通常「停止条件」(特定の条件成就により法律行為が発生する)がつけられます。
※裁判所から許可が下りなかった場合は契約そのものが不成立。 - 家庭裁判所への申立て
売買契約後、家庭裁判所に「居住用不動産処分許可申立て」を行い、売却の許可を申請します。 - 許可の取得
裁判所が申立てを審査し、売却の理由や条件の妥当性を判断します。許可が下りると次の手続きに進むことができます。 - 決済・引き渡し
裁判所の許可後に、売却代金の受け取りや物件の引き渡しを行います。
注意すべきポイント
成年後見制度で不動産を売却する際には、いくつかの重要な注意点があります。
・居住用不動産と非居住用不動産の違い
居住用の不動産売却には、家庭裁判所や成年後見監督人の許可が必要です。非居住用の場合、許可は不要ですが、成年後見人が自由に売却できるわけではありません。また、売却を行う正当な理由が必要ですので、判断できない場合には専門家に相談しましょう。
・売却理由の正当性
生活費や医療費の確保など、具体的で正当な売却理由が必要です。裁判所は、申立ての際に売却の妥当性を確認します。
手続きにかかる費用と時間
成年後見制度での不動産売却には、費用や時間も必要です。以下に代表的な費用を挙げます。
・申立手数料: 約800円(収入印紙代)
・登記手数料: 約2,600円(収入印紙代)
・郵便切手代: ~5,000円
・医師の診断書費用: 数千円程度
・成年後見人報酬: 月額2万~6万円程度が相場(家族が後見人の場合、無報酬のケースも多い)
・鑑定料: 裁判所が必要と判断した場合、10~20万円程度
成年後見人の審理期間については、一概にはいえませんが多くの場合、申立てから法定後見開始まで4か月以内となっています。
専門家への相談をおすすめします
成年後見制度を利用した不動産売却は、複雑な手続きが求められます。売却の目的や手続きの妥当性をしっかり確認しないと、契約が無効になる可能性もあるため、専門家と連携しながら進めるのが安心です。
参考:厚生労働省ホームページ「成年後見はやわかり」https://guardianship.mhlw.go.jp/